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東京高等裁判所 昭和54年(ネ)126号 判決 1981年2月17日

控訴人

三協建設工業株式会社

右代表者

末松盛二郎

右訴訟代理人

菅井敏男

被控訴人

株式会社増田工務店

右代表者

増田理章

右訴訟代理人

奥川貴弥

上條義昭

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金七五〇万円及びこれに対する昭和五一年五月二八日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張、証拠の提出、援用及び認否は、被控訴代理人において「本件契約が心裡留保であるとの主張は撤回する。本件契約は、東京都発注工事の請負入札に際し控訴人と被控訴人との間に行なわれた被控訴人を落札者たらしめる旨の談合に基づくものであつて、公序良俗に反し無効である。」と述べ、控訴代理人において、「右主張事実を否認する。」と述べ、証拠として当審における控訴人代表者本人尋問の結果を援用したほか、原判決の摘示事実と同一であるから、ここにこれを引用する。

理由

本件訴えは、東京都発注の葛飾清掃工場職務住宅建築工事に関し、昭和五〇年一二月二五日控訴人と被控訴人との間に成立した被控訴人が受注する住宅内装工事の約半分を控訴人に施工させる旨の契約を被控訴人において履行しないことによつて控訴人の蒙つた損害の賠償を求めるものであるが、<証拠>によると、右契約は、該工事の入札に際し、控訴人と被控訴人との間において、他の入札参加者ら全員の意を体し、被控訴人が五、一九〇万円で入札申出をするのに対し、控訴人がさらに低価の入札申出をしないことにより、被控訴人をして最低入札者として工事請負人たらしめる旨の話合いが行なわれ、控訴人が右の競争入札をしないことの代償として締結されたものであることを認めるのに十分である。

されば、控訴人と被控訴人との間に行なわれた叙上の話合いは、競争入札者をして自由に低価の申出をさせることにより、工事請負価額を可及的に低廉たらしめんとする入札手続において、最低の入札申出額よりも低価の申出をしないことをその義務たらしめるものであつて、競争入札制度の本旨にもとり、民法九〇条にいう公の秩序善良の風俗に反する事項を目的とするものであり、かかる競争入札をしないことの代償として締結された右契約もまた、民法九〇条に牴触して無効であつて、控訴人においてその履行を求めるに由ないものというべきである。

よつて、控訴人の本訴請求は、その余の点について判断を加えるまでもなく、失当たるを免れず、これを棄却した原判決は結論において相当であるというべく、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民訴法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(渡部吉隆 蕪山厳 安國種彦)

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